「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

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★★ひーエッセイ★★ '02/11/19(Tue)発行
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第70巻 「年上の彼女」
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 2週間ほど前、Tちゃんから久々に電話がかかってきた。Tちゃんとは、第56巻「堂々巡り」に登場した男性である。

 彼の母親は、私の従姉にあたる。私と彼女とは24歳という親子ほどの年齢差があった。私の母とも親しかった。
 電車で2駅ほどしか離れていない場所に住んでいることもあって、小さい頃からTちゃんと私はまるで姉弟のように、ざっくばらんに話をする間柄である。

 前回電話をくれた時、彼は見合い問題でマリアナ海溝よりも深く悩んでいた(詳細は、第56巻「堂々巡り」をお読み下さい)。
 それ以来連絡が途絶えていたので、私は早速聞いてみた。

「見合い、どうやった?」
「ああ、あかんかったわ。見合いするまでの段階で、やっぱり先方が難色示して、話がまとまらんかったわ。それよりな・・・」

と言って、彼はこう切り出したのだ。

「ねえちゃん、今、俺、付き合っている人がおんねん」
「おお! よかったやん。どんな人?」
「うん、年上の人やねん」
「ふーん、いくつくらい上なん?」
「・・・ねえちゃんより、上や。40歳。俺より6歳上や」
「ひえ〜っ! ほんまに?」

 Tちゃんは決して男前ではないし、割と心配性の所があるけれど、背は高いし、気遣いの男である。だから、今までにも何人か彼女がいた。
 だけどそれまでの彼女は、同年齢か年下だった。年上の彼女というのは、たぶんTちゃんの彼女史上、初めてのことであろう。

 私の好奇心は、既に沸騰状態である。
 6歳上の女性と付き合うことになったきっかけは、どんなものだったのだろう。どこで知り合ったのだろう。

 Tちゃんは、システムエンジニアをしている。今年に入ってから、彼は更なるスキルアップを目指し、週末ごとに学校に通っていた。
 彼女とは、その学校のクラスメートとして出会ったそうである。

 彼女は、現在一人暮らし。失業中で、現在職探しの最中だそうだ。彼女も更なるステップアップを目指して、入学してきたらしい。
 ご両親とはつい2〜3年前まで同居していて、既に結婚した弟さんが1人いる。

 彼女とは入学当初からしゃべってはいたらしい。こういう週末学校というのは月日が経つにつれ、だんだんと出席者数が減ってくるのが実情である。でも彼女は、最後まで真面目に出席していたそうだ。
 出席人数が少なくなるにつれ、話す機会も多くなり、だんだんと親しくなり、付き合うことになったというのである。

「ほんで、ほんで、どんな人なん?」
「うーん、年齢よりも若く見えると思うで」

 その週末、Tちゃんの家に晩ご飯を食べに行くことになった。数ヶ月ぶりの訪問である。
 晩ご飯を食べに行く当日の朝、Tちゃんから再び電話がかかってきた。

「あのな、今日、彼女も来るねん」
「え、ほんまに! どきどきやなあ」
「それでな、彼女が若く見えるから、俺、まだお父さんに彼女の年齢のこと言うてないねん。折を見て話すつもりやけど・・・」
「ということは、年のことを話題にしたらあかんねんな?」
「うん、頼むわ」

 夕方、私はTちゃんの家に向かった。
 到着すると既に食事の準備は整い、彼女も食卓についていた。彼女と型どおりの挨拶をすませ、私もすぐ食卓についた。
 私の席はTちゃんのお父さんの前、その横には彼女が座っている。

 実は、Tちゃんの彼女と会ったり、挨拶を交わしたり、しゃべったりすることは、今回が初めてなのだ。
 Tちゃん、結構本気かもしれない。

 Tちゃんのお父さんは、いつになく饒舌である。いつもよりお酒の進み具合も早く、しきりに「私に」話しかけてくる。
 Tちゃんのお父さんの話に相づちを打ちながら、私は彼女の顔を改めて眺めた。

 彼女がTちゃんよりもかなり年上だということ、お父さんにばれてる。たぶん確実に。
 だけど事前の打ち合わせ通り、年齢のことは口にはしなかった。

 その夜は鍋を囲んで、にぎやかなひとときになった。
 Tちゃんは亡くなったお母さんの訓練の賜物からか、結構こまめに動く男である。台所仕事も「好きだ」と言い切る。
 その日の料理も基本的に、Tちゃんが買い物から仕込みまで全てこなしたものである。

 特に後片づけが好きらしく、彼女によればTちゃんは、彼女の家で過ごす時も、頼まれもしないのに食事の後片づけをするそうである。
 そんなTちゃんに慣れているのか、彼女はのんびりとしていて手を出さない。時々、Tちゃんの頼みに応えて手伝う程度である。

 彼女は私よりも年上だということを感じさせない、柔らかい雰囲気を持った人だった。
 私は比較的、人見知りする方である。だけど、彼女としゃべっていても、緊張感を感じるようなことはなかった。

 だけど、Tちゃんと彼女との間には6歳という年齢差がある。彼女は私よりも、2歳年上だ。
 私はそこまで考えて、ふと思ったのだ。

 彼が父親に彼女が6歳年上だということを告げるのをためらうのは、なぜだろう。
 私が彼の彼女が6歳年上だということにびっくりし、並々ならぬ興味を抱いてしまったのはなぜなんだろう。

 男性が6歳年下の女性と付き合っても、女性が6歳年上の男性と付き合っても、他人から特別何も言われはしない。
 だけど、男性が6歳年上の女性と付き合ったり、女性が6歳年下の男性と付き合ったりすると、人は一様に驚いたりする。
 それに、姉さん女房という言葉はあるけど、その逆に当たる言葉はない。

 Tちゃんだって、彼女が6歳年下なら何のためらいもなく、父親に彼女の年齢を告げただろう。

 私の友人で、漫画家をしているMちゃんの知り合いには、年下の男性とのお付き合いにこだわる女性が数人いる。

 彼女たちの理想の男性は、20代後半から30代前半で、三高が望ましく、顔もハンサムで、自分が余裕のある専業主婦でいられるくらいの年収があり、両親との同居の必要がない男性だそうだ。
 そんな理想をずらずらと並べ、「結婚したい」と言う彼女たちは、既に40代である。

 Mちゃんは嘆いている。
 彼女たちの好みの男性のタイプは、20代の頃からちっとも変わらず、自分が年齢を重ねているという事実を無視している。
 もっと結婚相手の対象年齢を広げればいいのに、年下が集まるコンパばかりに参加していると。

 Mちゃんの友人は極端な例だろうけれど、彼女たちが年下の男性にこだわるというのは、自分の年齢をより強く意識している現れだろう。
 年下の女性にこだわる男性も、同じだ。

 だけど男性は、女性ほど年齢差を気にしてはいないように思う。

 人はいつまでも若くありたいと願う。でも、「いつまでも若く美しくありたい」とより早く願い始めるのは、たぶん女性だ。
 そんな願いの果てに、女性を追いつめる女性が現れたりする。
 結婚も、出産も、子育ても、「若いうちにするものだ」と。

 日本の男性が、年配の女性より若い女性を好んで重用することは、どこに行ってもよく見られる光景である。
 だけどそういう世の中にしてしまったのは、実は女性だったのではないかと思ったりするのである。

 そう考えると、私が「6歳年上の彼女」という目線でとらえたことは、彼女にとってはとても失礼だったのかなとも思うし、Tちゃんが彼女の年齢のことを親に言うのをためらうことも、気の毒なことだと思ったりもする。

 Tちゃんの彼女には、自分が年上であるという気負いが全くない。Tちゃんと2人並んでいると、いい雰囲気のカップルである。
 Tちゃんが彼女のどんなところに惹かれたのかはわからないけれど、惹かれた人がたまたま年上だったということだったのだろう。

 だけどもし私が6歳年下の男性と付き合い、彼を親に紹介するとしたら、やはり彼の年齢を伝えることをためらうのだろうか。

 私がその日Tちゃんの家を辞去したのは、夜9時過ぎ。彼女が運転する車に乗せてもらって、最寄りの駅まで送ってもらった。
 助手席には座ったTちゃんは、まるでしゃべるカーナビである。

 駅前で私を降ろした2人は、「これから遊びに行く」と言い残して、車で消えていった。

 車のテールランプを見つめながら、Tちゃんが私に盛んに言っていた「彼女が若く見える」と言葉は、彼女が彼を見つめる目に気負いがないという意味なんじゃないかなと感じた。
 Tちゃんは彼女のその目に、安心感を持っているんじゃないかなあ。

 いろいろと障害はあるけれど、このまま2人の関係がうまく進めば、結婚ということになるだろうと、電話口で語っていたTちゃん。

 もしまた彼女に会う機会があったなら、彼女が本当はTちゃんとの年齢差のことをどう感じているのか、聞いてみたいなあ。