「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

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★★ひーエッセイ★★ '02/09/17(Tue)
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第62巻 「ほんまにいろんな人がいる」
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●その1 密着姉妹

 第46巻「30代」に登場したMちゃんから聞いた話である。

 Mちゃんには、A子ちゃん(30代後半)という友達がいる。
 A子ちゃんのご両親は、間をおかずにばたばたとご病気になられた。彼女はお姉さんと協力しあい、ご両親を献身的に介護した。そのために彼女は、会社をやめてしまったそうである。何事にもまっすぐで、少し神経質なところもあるそうだ。
 A子ちゃんのご両親は既に亡くなり、現在はお姉さんと2人暮らしである。彼女は現在も無職で、生活費はお姉さんに頼っている。ちなみに、姉妹とも独身である。

 この夏久々に、MちゃんはA子ちゃんと再会した。MちゃんはA子ちゃんが未だに無職でいることを心配し、「仕事、しないの?」と聞いたそうである。
 するとA子ちゃんは、こう言ったのである。
「猫が・・・」

 Mちゃんは目が点になり、「はあっ? 猫?」と心の中で思ったそうである。当然である。だって、Mちゃんの質問の答えに全くなっていないのだから。
 私がMちゃんの立場だったら、きっと声に出してたな。

 Mちゃんの疑問に答えるように、A子ちゃんはぽつぽつと言葉を続けた。

「この間、うちの猫が円形脱毛症になってん。私びっくりして、獣医さんとこにとんでいって、診察してもらった。『どうしてこんなことになったんですか?』って獣医さんに聞いたらな、『これはストレスからくる脱毛です。何かこの猫に、ストレスかけるようなこと、しましたか?』って言われてん」
「・・・・」
「なんぼ考えても、思い当たらへん。ずーっと考えてた。それでふっと、思いついた」
「・・・何?」
「私、この猫の横で、アルバイトの情報誌をずっと読んでたんや。仕事せなあかんなって思うて。よう考えたら、バイト情報誌を読み出してから、この猫の毛が抜けたんや。『よそに行ったらいや』って、この猫、言うてたんやな」
「・・・・」

 A子ちゃんは、この一部始終をお姉さんに報告したそうである。話を聞き終わったお姉さんの言葉が、またふるっている。

「まあ、かわいそうに。そんなら、あんたはもう働きに行かんでもええ。私がちゃんとお前のことを、世話してあげるから」

 Mちゃんは、心の中であきれかえりながら、彼女の話を聞いていたらしい。
 Mちゃんからその話を聞いた私は、その場にひっくり返ってしまった。なぜこの姉妹は、こんなに密着しているのか。

 身内が困ったら、助け合うのは当然だとは思う。A子ちゃんのお姉さんの妹に対する愛情は、並々ならぬものだ。
 でもこれが、本当の愛情なのだろうか?

 もしこの「密着姉妹」が結婚したら、いったいどのような道を歩むのだろう。それぞれの伴侶を、自分たちの家族の価値観に密着させ、より密着した身内関係を形成していくのだろうか。
 身内関係を異常なほど密着させるためには、それぞれの自我を殺さなければ成り立たない。

 A子ちゃん姉妹が、自分を殺してまで身内のつながりにこだわるのは、いったいなぜなんだろう。もっと言ってしまえば、ご両親の介護のために、A子ちゃんが会社をやめる必要があったのだろうか。そして、ご両親はこのことをご存じだったのだろうか。
 もしかしたら彼女の家族は、介護したりされたりすることに、美しさを感じ、その状況に酔っていたのかもしれない。もしそうだとしたら、この家族は、家族じゃない。

 猫のことに関しても、あくまで考え方が自分本位である。A子ちゃんは本当は、働くことに乗り気ではなかったから、猫に甘え、お姉さんに甘え、自分に甘えているのだと思う。それに、この猫が本当に姉妹のことを愛しているのなら、働きに出ようとしているA子ちゃんを止めるはずがない。
 百歩譲って、円形脱毛症の原因がアルバイト情報誌にあるとしたら、この姉妹は猫に馬鹿にされていることになる。

 世の中には、ほんまにいろんな人がいる。


●その2 振り返らないおばちゃん

 第36巻「あっちくんとたけちゃん」に登場したK子ちゃんから聞いた話である。

 K子ちゃんは、医療事務の派遣パートをしている。この仕事は締日の関係で、月初が特に忙しい。そういう時は、数人でチームを組んで手分けして処理をこなす。
 彼女は医療事務のキャリア数年、仕事の飲み込みも早いので、現在ではチームの責任者をまかされている。

 K子ちゃんは、ずいぶん以前から「チーム内に、困ったおばちゃんがおる」とぼやいていた。先日、とうとうそのおばちゃんを、違うチームに移籍させることに成功したそうだ。

「うちら歩合給でな、処理を早く終わらせれば終わらせるほど、時給が上がんねん。そのおばちゃんがおった時より、今は時給が100円以上上がったわ。今までの苦労は何やったんやろ。あー、ほっとした」

 医療事務は、ある程度の勉強が必要である。K子ちゃんが所属している会社は、仕事に就く前に一定時間の授業があり、テストに合格した人だけが仕事を紹介してもらえるシステムを採用している。
 仕事を始めても、規則の改正は何度も行われるので、その都度また勉強である。

「勉強して、テストに合格してんねんから、知識があるはずやんか。それやのに、そのおばちゃんは何も知らんねん。教えても、すぐ忘れはる。そのくせ、いろんな人が持ってる資料はコピーして山ほど持ってんねん」
「そういう人はな、資料をコピーすることで、覚えた気になってるんや」
「そやけど、あんだけ資料を持ってて、整理できてないから、いざという時に何の役にもたたへんねん」
「そうやろうな」

 このおばちゃん、持ち出し厳禁のレセプトを、うっかり家に持ち帰ったこともあるらしい。
 ちなみにレセプトとは、患者さんのカルテを基にして作成された計算書みたいなもので、基本的に持ち出し厳禁である。これを基にして、病院は各保険組合に保険診療分の金額を請求するのである。

「そのおばちゃんな、何かの資料に挟んでうっかり持ち帰ったらしいねん。それがわかったん、1ヶ月後や。『ここにレセプトがあるんですう』って、まるで人ごとみたいに言うてきはんねん」
「えっ、病院にばれへんかったん?」
「うん、請求せえへん方がもっとやばいから、翌月分に混ぜてこっそり請求したわ。それよりもな、1ヶ月後に見つけたっていうことは、1ヶ月間資料も何も読んでないっていうことや。何にも勉強してへんから、すぐ忘れるんや。どういう給料体系になってるかをわかってるくせに、自分がみんなの足をひっぱってること、全然自覚してへんねん」
「そのおばちゃん、社会人の経験がそれまでなかったんとちゃう?」
「いいや、若い時、銀行に勤めてたらしいで。それも窓口業務らしい」

 新人に、約束事と全く違うことを教えたこともあったし、新人をほったらかして、「用事があるから」と先に自分だけ帰ってしまったこともあったらしい。
 一連の作業の中には、「切り貼り」というものがある。患者さんによっては数枚にわたるレセプトをまとめるための作業なのだが、このおばちゃんは患者さんの名前の確認もせず、全く違う患者さんのレセプトを切り貼りしてしまうことも多かったそうだ。

 ぶいぶい怒るK子ちゃんの話を聞きながら、向上心の高さの違いということもあるけれど、基本的にこのおばちゃんのような人って、自分を振り返ることを知らない人なんだと、私はぼんやり考えていた。

 自分が任された仕事は、いったいどこにつながっているのか。他の人に少しでも迷惑をかけないようにするには、どうしたらいいか。
 自分を振り返ろうとしない人は、こういうことを考えようとはしない。そして、全体の流れを大きく見ることができない女性が多いことも、確かなのである。

 こういうおばちゃんは、家庭生活をどのように営んでいるのだろう。自分に責任感が欠如していることを自覚することなく、自分の子どもに「責任感を持つように」と教育しているとしたら、子どもに軽蔑されているだろうな。

 世の中には、ほんまにいろんな人がいる。