「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

<ひーエッセイ 第44巻 ★★DM騒動★★>
発行日:'02/05/14(Tue)


 私は現在、SOHOとして在宅で仕事をしている。顧客獲得方法として、主にメールでDMを送付する形態を取っている。

 HPに掲載されているメールアドレスを根こそぎ検索し、とにかく無条件にDMを送っている人たちが多いようだが、私はそんなことはしない。
 テレショップで「熟練した職人が1つ1つ手作業で、丁寧に作っているんですよ」と言いながら販売しているアクセサリーのごとく、完全手作業で手間をかけて送付している。

 まず、ネット上の業界データベースを探し出し、そこに登録している会社のHPを1つ1つ訪問し、会社の規模を確認する。私が現在ターゲットとしている会社は、10人以下ぐらいの規模で運営されているような中小企業だ。
 条件に合う会社をようやく探し出しても、「HP作りっぱなし」という会社も結構多い。こういう会社は、HP上にメールアドレスさえも記入していないことが多い。書かれていても、トップページに記載してあるとは限らないので、ページ内を探し回らなければならない。

 丹念にHPを見て、1つずつアドレスを拾い出して一覧表にし、ある程度まとまったところでDMを送信している。
 だがせっかく送信しても、アドレスが存在しないという理由で、メールが戻ってくることもしょっちゅうだ。

 さらに今年に入ってからは、経済産業省が「特定商取引法施行規則」を改正し、受信者側から「DM不必要」と意思表示できる方法を、DMに記載しなければならなくなった。もし不必要な場合は、届いたメールをそのまま返信してほしい旨が記載されているDMをご覧になられたことがある方も、多いかと思う。
 私が送信するDMにも、この一文を記載している。だから、メールが無事届いたとしても、「DM不必要」という意思表示メールが戻ってくることもあるのだ。

 宛先不明のアドレスはリストから削除する。「DM不必要」という意思表示アドレスは別表に移し、次回からは絶対に送付しないよう留意する。
 こういう地道な作業の積み重ねで、私がこつこつ集めたデータは、ここ数ヶ月で1000件ほどになった。だけどデータは生物なので、日々古くなっていく。

 先日、新規客の開拓と、HPリニューアルの宣伝と、データチェックを兼ねて、久々にこの既存データを使ってDMを発信した。
 宛先不明で届かなかったメールや、「DM不必要」という意思表示メールが、メールボックスにどんどん入ってくる。例によって、私はそれをひとつずつチェックし始めた。
 その中に、「重要度高」マークがつけられたメールが1通あった。そのメールの文面は、こう始まっていた。

> このようなメールはホームページ上でお断りしています。

 私は早速、この会社のHPを再訪した。リンクをたどっていくと、確かに「DMお断り」と明記されているページが見つかった。
 正直なところ、このようなメッセージにめげていては、DMなどは送ることができないのだが、ページに明記してある以上、私に勝ち目はない。私はパソコンの前で「ごめんなさい」と、頭を下げた。
 でもこの方の抗議は、それでとどまらなかった。

> また、下記の条件をみたしても、そんなものは一般には認められませ
> ん。完全なSPAMです。二度と送らないでください。

 「下記の条件」というのは、送信したDM内に記載した、「このDMが『特定商取引法施行規則』の指示に従って送信したものである」という一文を指している。こういう文章を記載することも、規則のひとつなのである。
 だけどこの方(会社?)にとっては、法律で何と定めようと、私がどう記載しようと、私が送信したメールはとにかく「迷惑」だったのである。
 それにしても「一般には認められない」とは、びっくりである。私にこんなことを訴えられても、何の解決にもならない。それともこの方が、「法律」そのものなのだろうか?
 そして最後に、とどめの一撃が待っていた。

> 返事があるまで、何通でも送信します。(何万通でも)

 読んだ瞬間、全身に鳥肌が立った。
 「返事があるまで」というのはどういうこと? 
 私がこの方に「ごめんなさい、もう2度と送りませんので許して下さい」という返事を送るまでということ? 
 それを確認しない限りは、どう読んでも「脅迫」にしか取れないこのメールを、未来永劫、いついつまでも送信し続けるってこと?
 私は、一気に気分が悪くなってきた。そしてそれからすぐ、本当に2通目のメールが送付されてきたのである。

> 貴社のウエブを拝見したら、以前もおくってこられてますね。

 送信したDMには、再送信だということを明記している。全く文章を読んでいただいてない。当然といえば、当然だが。

> 私は、ウエブでも本名を書いています。

 「私は女性である。女性が、まだまだ成熟しきっていないネット上で本名を公開するということは、かなり覚悟が必要だ。だから本名は公開していない」と、HPに詳細に書かなければならないのだろうか?

> そのときに、当方のメールアドレスを削除していただいていないので
> しょうか?

 そのときに、この方から、私は何も連絡をいただいてない。

 その後間髪を入れず、3通目が届いた。

> 2001年の、下記メールもSPAMと判断しましたが、お近くということで、
> 強くはでませんでした。二度と送らないでください。(私信は除く)

 この3通目のメールには、私が最初に送ったDMが添付されていた。つまりこの方は、ご自分が迷惑メールだと判断したメールを、全て保存しているのだ。
 ここまで読んだ私は、「何万通でも送る」と書かれたメールを受け取っている人は、他にもいるのだということを理解した。

 この3通目を受信した時点で、恐怖を感じた私は、この方に簡単な謝罪メールを送信した。何万通と受信する予定だったメールは、無事ストップした。心からほっとした。
 私信なら読んでいただけるのかもしれないが、たとえどんな大きなビジネスチャンスがあったとしても、私は今後この方に、私信も湿疹も鉄心もミシンも、絶対に送りたくはない。

 それまでも、「DMは不必要ですので送信しないで下さい」というメールはたくさん届いていた。中には丁寧に「せっかく送っていただきましが、こちらでは間に合っております。申し訳ありません」という文面を送信してこられた方(会社)もあった。
 こういう会社からもし依頼をいただいたら、私はどんな遠方でもはせ参じてしまうし、どんな時でも謙虚な気持ちで仕事ができるだろう。

 だが、こんな恐ろしいメールを受け取ったのは、後にも先にも初めてのことだった。
 送信先をセレクトし、DMの内容もじっくりと考え、突然送信する非礼を詫びる文面を付け加えて送信しているのに、その気持ちさえ理解してくれない人(会社)が存在することに、強烈なショックを受けた。

 宣伝する側は、とにかく一度顧客と接触してみなければ、その顧客にとって自分たちが「スパムな存在」かどうか、判断ができない。
 今回私が送信したDMを、有益な情報として受け取っている人が、たった1人でもいるかもしれない。私がDMを送信する目的のひとつは、それを知ることなのだ。

 メールDMだけではなく、郵便DMだって、電話や自宅訪問での勧誘だって、宣伝の一つの手段である。今はスパムメール(メールDM)だけが問題視されているが、「必要がない」と何度断っても家にやってくる営業マンだって、電話番号非通知で何度もかけてくる勧誘電話だって、どんな宣伝方法でも人によってはスパムに成りうるのだ。
 そういった点で、メールDMと、その他の宣伝方法とでは差がないはずである。私にとっては、見知らぬ会社から届く郵便DMの方が、よっぽど「スパム」である。

 もしかしたらこの方は、「スパム」という言葉の意味をわかっていないのかもしれないのかもしれない。「スパム」という言葉自体に、踊らされているのではないかとも思えた。

 この恐怖のメールを受け取って、私が感じたもう一つのことは、スパムメールを受け取るのが嫌なら、この方はなぜネット上でアドレスを公開しているのかということである。

 ネット上でアドレスを公開すると言うことは、自分の家の前にポストを設置していることと同じ事だ。
 家の前にポストを設置していれば、私信は当然届く。だけど、自分とは直接関係がないかもしれない、不動産屋や自動車販売店や宅配ピザ屋のチラシだって当然届く。チラシが嫌で、ポストを撤去する家などない。撤去してしまえば、必要なものも届かないから。

 この方は、業界データベースに自社情報を登録されているのである。ネットに登録するということは、自分に有益な情報を得ることができるというメリットがあると同時に、不必要な情報も目に入るというリスクも背負うということだ。
 これだけ情報が錯綜する世の中になったのだから、情報を整理して取捨選択していくことも、受信者の責任の一端なのではないかと、私は思う。

 この方は、ご自分の興味がないDMは全て「スパム」だと認識されているのだろうか。
 もしそうならこの方は、メールDM以外に対してはどう対応されているのだろう。私の送信したDMが、もしこの方の「つぼ」にはまったものだったら、果たして「スパム」に成り得たのだろうか。

 ネット社会に船出して数ヶ月。ネット社会のメリットとデメリットを、痛感した出来事だった。
 このメールを受け取ったショックから、私はまだ立ち直れていない。