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<ひーエッセイ 第34巻 ★★老健施設見学記★★>
発行日:'02/03/04(Mon)


 先日から立て続けに4カ所、老健施設の見学に行った。
 今後の父の居場所の選択肢を広げることが目的なのだが、なんで4カ所も行くはめになったかという理由は、また別の機会に書くことにする(ネタは残しておかなければ・・・)。

 考えてみれば、父がお世話になる場所を、私自身が探して見て回るなんてことは、初めての体験である。
 今まで病院を転々としてきたけれど、全て病院側に次の病院の選択はまかせてきたからだ。

 施設に入所を希望するということは、家族が動き回る必要があるということでもあるのだ。

■「老健」とは、何ぞや?

 私の老健施設見学は、正直言って、このレベルからのスタートである。
 介護保険を利用して入所する施設だということは、知ってはいた。けれど、詳しいことは何一つ知らなかった。

 「老健施設」というのは、「老人保健施設」の略である。

 老健施設は、病院と自宅の中間に存在する施設として位置づけられている。つまり、病院では特に治療は必要としないけれど、まだまだ家に戻って生活するには不安であるという人が入所するというのが、建前である。
 だから、病院や医療法人が経営している場合が多い。

 施設によって違うが、実際に介助にあたるスタッフが、平均して若い。
 入浴は特に力仕事なので、男性スタッフが多い施設もあった。

 老健施設が本格的に運用され始めたのは、介護保険制度が発足してからなので、建物自体も築後10年以内(4〜5年というのが、一番多かった)と新しい。
 部屋の広さなどは規則で決められていて、どの施設もほとんど同じである。最大でも一部屋4人、その広さも通常の病院の8人部屋くらいの広さである。施設によってそれぞれ違うが、新しい施設などは各部屋に洗面所がついていたり、小さいクローゼットが備え付けられていたりする。

 各人のケアプランによってそれぞれ違うのだが、日々主に行われるのは「生活リハビリ」である。家に戻っても、なるべく普通に生活できるようにするためである。

 代表的なリハビリの一つが、「着替え」である。起床時には寝間着から普段着に着替え、就寝時には普段着から寝間着に着替える。トイレなども、自分でできることはなるべく自分でするよう、スタッフが誘導・介助する。
 車椅子を使ってでも動ける人は、ベッドサイドではなく、食堂に集まってみんなで食事をするというところも、各施設共通していた。

 また、行事も多い。月に1度のお誕生会や季節のイベントなどは、ほとんどの施設で実施されていた。クラブ活動などもある。
 時にはボランティアで、近くの学校から楽器の演奏をしに学生が来てくれたり、幼稚園児との交流会などもあったりするらしい。

 老人ホームは、基本的に一旦入所すれば生涯そこで暮らすことができる。だから、特に特養(特別養護老人ホーム)などに入所申込をしても、数年待ちが一般的だそうだ。それに、どんなに若くても70代にならないと入所が難しいのが実情である。

 しかし、老健施設はあくまでも「在宅での生活のために準備する施設」というのが名目なので、入所期間は限られている。基本的には3ヶ月間、最長で6ヶ月間である。
 厳しい施設では、2ヶ月が過ぎた頃から「退所勧告」みたいなものが出るという。

 もちろん半年が経過したからといって、すぐに退所できるという人ばかりではない。家での生活がまだまだ困難だとみなされる人もいるし、家庭の事情で家での生活が不可能な人もいる。
 そういう場合は、施設との話し合いになるのだが、どうしても退所せざるを得ない人たちは、家にしばらく戻ったり、違う施設に行ったり、病院に再入院したりと、様々らしい。
 家での生活が全く不可能な人などは、数カ所の特養への入所申込をしておいて、どこかに空きが出るまでの間、いろいろな老健施設や病院を転々として過ごすというパターンが多いようだ。

■入所するにも、審査があるのだ。

 老健施設に入所を希望する時は、まず施設の相談員との面談がある。私は、2カ所の老健施設の相談員さんと実際にお話しした(あとの2カ所は、見学のみ)が、両施設とも30代くらいの女性が担当だった。見学も、もちろんさせてもらえる。

 そして、いわゆる「健康診断書」の記入・提出を求められる。これは、かかりつけの医者に書いてもらわなければならない。
 健康診断書を施設に提出すると、それを元にして施設内で判定会議が開かれる。そこでOKが出て、初めて入所が認められる。
 ケースワーカーさんによれば、相対的に介護度の低い人が入所できる確率が高いらしい。なぜなら、そういう人たちの方が回転率が高いからだ。

 施設によっては、健康診断書だけではなく、入所する本人の面談を義務づけている所もある。義務づけてはいない施設も、「本人に来ていただければありがたいです」とおっしゃる所がほとんどだ。
 この面談の大きな目的は、入所者本人に痴呆があるかどうかを見極めるためだそうだ。簡単な試験もあったりするらしい。

 病院の介護病棟や療養病棟では、痴呆がある人もない人も、生活フロアはいっしょである。
 だけど老健施設では、痴呆がある人ばかりを集めたフロアを作ってしまっている場合がほとんどだ。管理する方の都合もあるだろうけれど、こうした方が、痴呆がある人にとっても、効果的だそうである。

 痴呆のある人とない人の会話は、基本的にかみ合わない。痴呆のない人は、その会話にいらいらする。私の父などは、露骨にいやな顔をして、時には怒鳴ったりする。
 それでもめげずにしゃべり続ける人もいるけど、無口になってしまう人も多いのだ。

 痴呆がある人同士の会話も、そばから聞いているとまったくかみ合っていない。お互いが向き合って、自分の言いたいことをしゃべっている。
 でもこの「おしゃべりをする」ということが、いいことなのだそうである。

 入所を認められれば、順番待ち行列に入り、本人に合ったフロアのベッドがあいたところで、めでたく入所ということになる。

■圧倒的に、女性優位。

「だいたいで結構なんで、入所が許可されてから、どのくらい待たなければいけないか、教えていただけませんか?」
「うーん、これはほんとに、タイミングなんですよ。特に男性はね」
「え? どういうことですか?」
「あのね、こういう施設は、圧倒的に女性の入所者が多いんです」
「へえ、なんでですか?」
「女性の方が平均年齢が圧倒的に高いですから」
「はあ・・・でも、それだけじゃないでしょ? 他に理由があるんじゃないですかねえ」
「うーん、やっぱり、家で奥様のお世話を受けておられるという人が、多いんじゃないでしょうか」
「・・・なるほどねえ」
「男性の方が人数が少ないので、男性用のお部屋の数も少ないんです。だから、タイミングよく退所される方がいらっしゃったら、すぐに入所できたりします。一応3ヶ月周期で回るようにはなってるんですが、なかなかご事情で退所できないという方もいらっしゃいます。こうなると、しばらく待っていただかないといけないんです。だから、どのくらい待てば入れる、ということは、はっきりとは申し上げられないんです」

 現在父が入院している療養病棟も、女性の方が圧倒的に多い。
 相談員さんの1人とこういうやりとりをして、ひとりぼっちになる確率は女性の方が多いんだと、改めて実感した。

■あちこち見て回るのが、一番。

 今回老健施設を回ってみて思ったのが、入所者の自由が制限されているということである。フロアの入口に鍵がつけられている施設もあり、少し嫌な気分になった。

 病院は比較的、自由がきく。父のように、特に安静にしている必要がない人は退屈なので、院内を徘徊している。
 休憩室に行ったり、ロビーに行ったり、時には表に出たり、こっそりたばこを吸っているおっさんだっているのだ。

 だけど老健施設では、各人のケアプランに沿って、スタッフは世話や介助にあたるので、基本的に入所者が行く所にはどこへでも付いて回る。1人で行動しようとすれば「どこ行くんや?」というスタッフの声が、どこかから必ず聞こえる。
 病院生活に慣れきっている父が、こういう雰囲気に慣れてくれるかどうか、一抹の不安がよぎる。

 各施設の方針も、それぞれ違う。
 あくまで「在宅介護までのつなぎ」というスタンスの所は、退所勧告も早い。逆に、介護する側の家族の事情もそれなりに理解してくれて、期間延長等で融通を利かせてくれる施設もあるようだ。
 融通が利きすぎて、希望者がなかなか入所できないという所もある。我が家から一番近い老健施設などは、入所希望から1年以上待たなければならない。

 基本的な費用は、介護保険に準じた金額(要介護度数によって違う)だ。
 だがそれ以外に、「管理料」「食事代」「おやつ代」などという名目で、別途費用が必要だ。この金額は、施設によって様々である。
 着替えは全部家族が準備し、家族が洗濯してくださいという施設もあれば、全てリース可能という施設もあった。

 施設それぞれに特色がある。その特色を見極めて、本人や家族のニーズに合った施設を選ぶには、あちこち見て回るのが一番だということを、今回の見学で学ぶことができた。そしておぼろげながら、老健施設の実態というのも垣間見ることができた。

 それにしても、病気や障害を持った人が、年齢を重ねるということは、なんて悲しいことなのだろう。生きることさえ、罪なのだろうか。