「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

<ひーエッセイ 第19巻 ★★パラサイトたち★★>
発行日:'01/11/13(Tue)


 私が社会人になったのは、今から15年前だ。就職先は、コンピュータのシステム会社で、同期入社は私を含め男女2名ずつ、計4人だった。
 もう既に4人ともその職場を離れてしまったが、女性同期だったK子ちゃんとは、今でも腐れ縁が続いている。

 その会社の1年先輩に、Tさんという女性がいた。少し小柄で、いつもつやつやのストレートヘア。通勤の服も、今から思えばブランド品ばかりだった。少し気取ったところはあったが、べっぴんさんで、結構もてていたらしかった。
 T先輩は、一人暮らしをしていた。確か実家は四国だったと記憶している。

 ある時、K子ちゃんは、息せき切って私の所に駆け寄ってきた。そして、どこから仕入れたニュースなのかは知らないけれど、私に、こう教えてくれた。
「なあなあ、T先輩って、働いてんのに、親から仕送りしてもらってるんやって! 信じられへんわ!」
「え、ほんまに? そしたら、もらった給料はどうしたはるんかな?」
「全部、自分の小遣いらしいで!」

 このK子ちゃん、兵庫県の地方都市(神戸市内から電車で数時間かかる)から、大学進学をきっかけに都会に出てきた、純朴そのものの女性である。考え方も、まっすぐな子だ。
「大阪って、いっぱい広告塔やら看板があるやろ、ビルの上に」
「そうやな。言われてみれば、ぎょうさんあるなあ」
「そやけど、なんで、看板とか広告塔が立ってるビルに、その会社が入ってへんの?」
「・・・・・なんでって言われても・・・・・」

 K子ちゃんは、大学の費用は奨学金でまかない、社会人になってからその奨学金を自分で返済していた。親に仕送りもしていたはずだ。
 その彼女にしたら、社会人にもなって、親に仕送りをするのではなく、親から仕送りしてもらっているという人が身近にいるという事実に、本気でびっくりしたのだろう。
「考えられへん、信じられへん」と、何度も繰り返していた。

 今振り返れば、これが今流行のいわゆる「パラサイト」に私が出会った、最初だと思う。

 パラサイトたちは、親に援助を受けるのは当たり前と思っている。さらにまずいことに、彼らの親は子供に頼りにされたと喜び、進んで援助を申し出る。

 独身時代は、当然親と同居(一人暮らしでも、家賃や家事一切を親に頼る)し、自分の給料は、全て自分の小遣いにする。
 使い道は趣味や旅行、食べ歩き。貯金などしない。子供のために親が貯金したりしている。

 たとえ結婚しても、彼らはそれまでの生活スタイルは変えたくないと思っている。相変わらず、父親をパトロン代わりに、母親を家政婦代わりに使う。
 親の意向を上手に利用して世間を渡って行く彼らは、さながらサーフィンしているかのようだ。

 私の従姉の子供にも、こういう子を嫁にもらって困っている子がいる。
 彼は、嫁の両親と同居している。一人娘だったこともあり、嫁の両親がかたくなに、「娘との同居」を望んだそうである。そして嫁も、親との同居を強く望んだそうだ。
 本当は彼は別居したかったのだと思う。だけど結局、嫁の両親が建設した二世帯住宅での「マスオさん生活」を、彼は選んだ。

 同居生活が落ち着いて来るにつれ、嫁の両親は次第に彼を「養子」扱いするようになる。
 彼の直系親族の冠婚葬祭にも、「なんで、あんたが行かなあかんの」と、嫁の両親が言葉をはさんでくる。
 家族内での重要なことも、嫁と嫁の両親の3人の意向が第一に反映され、彼の意向は二の次である。

 そんなこんなで彼は今、本気で離婚を考えているらしい。その話を聞かせてくれた、彼の親(つまり、私の従姉)が言った。
「あの嫁は、彼のことは愛してるんやと思う。そやけど離婚の話になったら、きっと親を取るやろな。だって、実家を出たら、今みたいな楽な生活、でけへんもんな」

 この「サーフィンパラサイト」は、何かに依存して生きる術しか知らない。彼らは、親にあがめ奉られて生活することに慣れてしまい、いつしか「自分が一番偉い」という妙な勘違いを起こす。

 他人に依存することなしでは、結婚相手はおろか、恋人も得ることができないくせに、理想が異常に高い。
 友人や知人に、お見合いや合コンを設定してもらい、相手まで見繕ってもらっても、「自分の好みではない」と、紹介してくれた人に対して難癖をつけたりする。

 要するに、自分に自信がないのだ。他人に頼り、他人のせいにすることで、自分の存在意義を示すことしかできないのだ。
 そして彼らには、「親はいずれ、いなくなる」という感覚が皆無だ。

 だけど「パラサイト」には、コンピュータウィルスと同様に、「亜種」が存在する。

 実はK子ちゃんのあまりの驚き様に、当時の私はなぜかとまどいを隠せなかった。
「親から仕送りをもらっている」というのには私も驚いたのだが、親が子供にこういう形でかかわるということを、私はそんなに不思議に思わなかったからだ。

 こんな私も、今思えば「パラサイト」の一種だったのかもしれない。さながら蟻地獄のような。

 私にも、一人暮らしをしてみたいと思った時期があった。だけど私は、「両親は私を介してつながっている」ということを、幼い頃から理解していた。
 特に母に対しては、「おとうちゃんのことで、おかあちゃんはしんどい思いをしてる。そやから、私が嫌な思いをさせたらあかんねん」という意識が常に働いていた。

 私が二十歳になる直前に、父はくも膜下出血で倒れて、病院での生活を余儀なくされた。それからの母は、それまで以上に、私をそばに置きたがった。
 私もそこそこ大人になっていたので、母がどうして私を手放そうとしないのか、なんとなく見えていた。

 母は、とにかく、寂しかったのだと思う。私だけが望みで、頼りだったのだ。

 口では、「いつ結婚して家を出て行ってもええよ」と言っていた。だけど、それとは相反する思いが、母全体からオーラのように出ていた。
 もし私が家を出ていたら、母はきっと心身共に崩れ落ちていただろうと思う。本当なら、その状態を乗り越えなければいけなかったのだと思う。でも、母の場合は私への思いが強すぎて乗り越えられないと、私にはわかっていた。

 だから結局私は、「パラサイト」せざるを得なかったのだ。
 私がこの状態を抜け出せたのは、母が亡くなったおかげだ。

 「サーフィンパラサイト」と「蟻地獄パラサイト」には、大きな違いがある。
「サーフィンパラサイト」は、親子ともがパラサイトし合っている。だけど「蟻地獄パラサイト」は、親子のうちのどちらかが、パラサイト状態なのだ。どちらかが抜け出したいと思っているが、もう一方がそれを許さない。

 だけど、パラサイトはパラサイト。根っこの部分は、同じである。
 いつまでたっても、子供を一人の人間として認めない親は、子供を自分の手元から離さないために、ありとあらゆる手を使う。
 そしていつしか、親は自分の子供を「所有物化」する。自分たちが子供を潰しているとは、露程も思っていない。

 親子だからこそ乗り越えなければならない問題から、パラサイトたちは目を背ける。なぜなら、もしその問題を乗り越えられなかったら、怖いから。今までの関係が崩れるのが、恐ろしいから。
 だけど、目を背け続けると、乗り越えられなかった時よりも更に恐ろしいことが、きっと起こる。

 さてK子ちゃんは、数年後結婚した。子供も2人もうけた。
 お姑さんは超元気者で、2人の結婚生活に遠慮なく割り込み、羽音をたててパラサイトする。K子ちゃんのご主人には、既に結婚した妹さんもいるのだが、お姑さんはその嫁ぎ先にまで元気に遠慮なく、押し掛けていくらしい。

 パラサイトなどというものに、全く縁のない生活をしていたK子ちゃん。最初の内は、かなりショックを受けていたらしい。
「何とかした方がいいんじゃないか」と、彼女はご主人に訴えたそうだが、ご主人の答えは「(お姑さんに)何を言うても、無駄や」。

 彼女が結婚して、もうすぐ10年になる。未体験ゾーンを通過したK子ちゃんに、T先輩のことを今はどう思っているか、聞いてみたい気もする。