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<ひーエッセイ 第13巻 ★★先生への手紙★★>
発行日:'01/09/24(Mon)


 先生、この間アメリカで起こったテロのこと、どんなふうに見ておられましたか? きっと、手も足も出せないご自分を責めておられたんじゃないですか?

 あの日、夜中にお風呂から上がってきて、何気なくつけたテレビから流れてきたのが、ワールドトレードセンタービルに飛行機が突っ込んだ映像でした。
 最初は、何が起こったのか訳がわからなかったです。アナウンサーは「テロ」という言葉を連発していました。自分の耳を疑いました。あまりにも衝撃的な映像に、「えげつないなあ」という言葉を、何度テレビの前でつぶやいたことか。恐ろしくて、鳥肌が立ちました。

 「テロ」ということは、激突した飛行機の中に犯人もいるわけです。自分たちの主義主張を見せつけるために、自ら死んでいった人もいるのです。そのことが私には信じられなかったです。
 何よりも、無関係の人を巻き込むという行為は許せないと感じました。

 次の日から、テレビも新聞もこの事件で埋め尽くされました。それまで日本で起こっていた事件や事故の続報は、吹っ飛んでしまいました。
 テレビでは、何度も何度も激突シーンが放送されました。民放テレビでは、レポーターが絶叫口調でしゃべり続けていました。
 このニュースを、見るのも聞くのも嫌になってしまうくらいでした。

 ワールドトレードセンタービルは崩れ落ち、ペンタゴンにも飛行機が突っ込みました。下敷きになってしまった人の数は、想像もできないくらいです。
 アメリカの人たちだけじゃなく、違う国から働きに来ている人たちもたくさん犠牲になっているようです。

 アメリカで起こった出来事だけれど、全世界の人を巻き込んだ事件だったんですよね。

 リアルタイムで起こっているとは信じられない様子をぼんやり見ている時に、私はふと先生のことを思いだしたのです。
 先生ならテレビの前で何て叫ぶだろうと。どのような行動を起こすだろうかと。私たちに何て訴えるだろうと。

 私は今、先生の言葉を聞いてみたいのです。強烈に。

 私、先生が大好きでした。中学2年の時に担任していただいたあの1年間は、本当に楽しかった。クラス全体のまとまりもよくて、先生もいきいきしてましたよね。

 先生は、被爆2世だった。そのことを生徒たちにも隠さず、自ら公表してましたよね。そして、私たちを担任してくださった年に、国連軍縮特別総会に参加されたんでしたよね。
 かっこいい女性と感じる人に出会ったのは、初めてでした。

 中学2年の私には、難しい政治の話しなんかはよくわからなかった。でも先生は、理屈抜きで、戦争はいけないことなんだと、何度も私たちに訴えておられました。戦争で得るものなんて何もないということを、教えてくださいました。

 普段はとびきり明るい先生だったけれど、このときの先生の姿には、悲壮感が漂っていました。

 歴史の教科書は、普通は古代史から始まります。でも、社会科を教えてくださってた先生は、現代史から始められましたよね。
「現在のことを知らないまま、昔のことを学習しても意味がない」とおっしゃって。

 現在のことをよく把握したうえで歴史を学ぶ。そうすれば現在に至った歴史の流れが把握しやすい。そして、二度と同じ過ちを繰り返さないためにはどうしたらいいのかを、考えるきっかけがつかめる。
 現代史から始められたのは、きっとこういう先生の思いがあったんですよね。今になって、よくわかります。

 先生のおかげで、私は社会科が好きになりました。特に、現代史が。

 でも先生、時代は先生の思いとはどんどんかけ離れていってます。
 この間、東京へ引っ越した学生時代の友達と、電話でしゃべってました。そしたら、受話器の向こうからものすごい音が聞こえて来たんです。

「何、さっきの音?」
「ああ、すごいやろ。あの音、自衛隊の飛行機の音やで」
「ええっ! ものすごい近いとこ飛んでるんやなあ」
「ううん、見えへんで。見えへんけど、すんごい音がすんねん。この間のテロから、多くなって、うるさいうるさい」
「へえ・・・。こっちではそんなこと、全然ないから実感がないなあ」
「私もそうやったで。ああ、これが自衛隊かって、初めて実感したわ」

 考えてみれば、日本の平和も危ういものですよね。「自衛隊や基地をなくすことが平和につながる」という声がある一方で、自衛隊や基地を、私たちは知らず知らずのうちに「懐刀」にしていたりする。そして自衛隊や基地がなくなったら、困る人や生活が成り立たなくなる人が存在するのですから。

 先生、でもこれが、この矛盾が今の日本の現実なのです。悲しいけれど。
 そして、戦争は起こってほしくないけれど、いつ起こってもおかしくない状況になっています。

 アメリカは、報復行動を起こすと叫んでいます。
 私もテロは許せない。罪のない数多くの人の命を、手段を選ばず奪うという行為は、人間のすることじゃないと思います。

 でも先生、私、報復行動を武力で行うというのは、何か違うと思うのです。
 もしアメリカが武力行使してしまうと、子供のけんかと同レベルになってしまうんじゃないかって思うのです。

 アメリカの同盟国という立場上、日本も何もしないわけにはいかなくなる。子供のけんかレベルの争いに、きっと巻き込まれていきます。
 そして全世界の人たちも巻き込まれていく。もしも、引っ込みが付かなくなり泥沼化した時、誰がどうやってこのけんかを止めるのか。
 戦争を始めるのは簡単だけど、終わらせるのは難しい。

 アメリカが武力行使をし、もし万が一戦争に発展した時に傷つくのは、テロの時と同じように、やっぱり何の罪もない人たちです。弱い立場にいる人たちです。

 戦争やテロを始めるのは、一握りの指導者たちです。どうしてもやりたいのなら、指導者同士がやればいいのです。何も無関係な人を巻き込む必要はないと思います。

 そう考えれば、飛行機に乗っていたテロの犯人も、結局はテロの犠牲者なのかもしれませんね、先生。

 先生は、被爆2世という立場から、身をもって、理屈抜きで「戦争をしてはいけない」とおっしゃってました。
 私もそう思います。戦争なんて、テロなんて「どうしてしてはいけないか」というような理屈なんかはない。
 どんな理由があるにせよ、人殺しをしてはいけないというのといっしょで、絶対にしてはいけないことだと思うのです。

 だけど今のアメリカは、政治的に何か「行動」を起こさないと収まりがつかない。
 そしてその「行動」が武力行使だったら、傷つくのは行動に巻き込まれた人たち。言い出しっぺや指導者たちは傷つかない。
 この矛盾、先生なら何て説明してくれますか?

 それじゃあ、今回のテロに関してどうすればいいのかって聞かれたら、正直言って私にはよくわからない。わかっているのは、戦争もテロも無関係の人たちが傷つくということだけ。私には、それが悔しい。
 だから先生の意見を、聞いてみたいのです。

 とにかくアメリカが、武力行使に頼らない大人な方法をとってくれることを、私は祈っています。
 考えが甘い、世の中そんなもんじゃないと言われようが、私は祈っています。先生も祈っていてください。守っていてください。

 でも私、先生には、この時代に生きていてほしかったです。今、とても、逢いたいです。