「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

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目からうろこがぼとりと落ちる
     ★★ひーエッセイ★★     2004/02/17 発行
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第103巻 「よそみばかりの、おのぼりさん(上)」
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 昨年12月上旬、我が家に1枚のハガキが届いた。それを見た瞬間、私は思わず叫んでしまった。

「げっ、当たっちまった!」

 昨年秋、私のエッセイにたびたび登場する、シンガーソングライターの岡村孝子さんがニューアルバムを発売された。彼女は、20年ほど前に一世を風靡した「あみん」というグループで活躍され、現在はソロ活動を続けている。
 私は彼女の10数年来のファンで、大阪でのコンサートはほぼ皆勤賞である。

 とある大手レコードショップが、そのニューアルバムの発売記念として「アルバムを購入して、店頭で渡される応募ハガキを出すと、抽選で12月に開催予定のトークショーにご招待」という特典をつけていたのだ。何はともあれ応募ハガキを出した私だが、そんなことはすっかり忘れていた。
 届いたハガキは、そのトークショーの入場券。抽選に見事に当たってしまったのである。開催場所は、東京・青山。開催日は約1週間後の日曜日である。

 大阪開催だと、一も二もなくすっとんでいく私だけれど、東京である。お江戸である。交通費だけでもばかにならない。
 何よりも、「トークショー」って、いったい・・・。

 彼女は、お世辞にも流ちょうなトークを展開する人ではない。台本に書いていないことを質問されると目が泳ぎ、スタッフに助けを求めるような人なのである。そんな彼女が、いったい何をしゃべるのだろうか。東京にまで行って、「しょうもない」と感じるようだと、もったいない。
 3日3晩、悩んでしまった。でも結局行くことに決めたのは、ファン仲間からの「せっかく当たったのに、もったいない」という後押しの声だった。

 何事も決意するまではうだうだと悩むけれど、一旦決めたら行動が早い私。ディスカウントチケット店で新幹線の切符を買い、駅で指定席をゲット、帰りの夜行バスの座席予約も入れた。東京駅からトークショー会場までのアクセス方法もインターネットで調べてプリントアウト。ついでに、トークショー終了後の観光先までチェックした。
 こうして私は、「一泊一日」という強行日程の「東京おのぼりさんツアー」を開催したのである。

 トークショーは午後からの開催である。整理番号順の入場なので、早く行って並ぶ必要もない。だから出発は、当日の朝。私は新大阪駅始発の新幹線に、スキップしながら乗り込んだ。席は、3人がけの列の窓側。あたりには誰も座っていない。
 1年ぶりの新幹線。1年ぶりの東京。何となくわくわくしながら、車窓の風景を眺めていた。

 次の停車駅、京都に到着。ホームには、修学旅行生らしき一団が並んでいる。総勢5〜60人くらいの学生軍団は私が乗っている車両になだれ込み、私の席の周りは全て学生服で埋め尽くされてしまった。
 京都土産を持った彼等は、何だかとてもあどけない。どう見ても中学生の雰囲気である。そして私の横には、引率の先生がちょこりんと座った。その先生も、どう見ても大学生くらいにしか見えない女性だった。

 彼等の乗車で一気に賑やかになった車内。先生の横に座っていた男子生徒は、京都で買ったおみやげを彼女に見せたりしながら、とにかくずっとしゃべっている。他の生徒も、適当にその会話に加わったりしている。
 しばらくすると彼等は続々と動き出し、弁当とお茶を携えて席に戻ってくる。そしていっせいに、遅めの朝食なんだか、早めの昼食なんだか、よくわからない食事を始めた。メニューは、三段重ねのミニ弁当だった。

 食事も無事終わり、先生は自分の膝の上に手荷物を置いた。それについていたタグを見た私は、ひっくり返りそうになった。

「宮崎県立○○高等学校」

 どう見ても中学生にしか見えないこのあどけない学生たちが、高校生とは!
 それよりも宮崎県からやってきた一団が京都で新幹線に乗車して、これから一体どこへ行くのだろう。興味津々な私。

 この日は、とてもよい天気だった。富士山日和である。案の定、車窓にちらっと富士山が見えた瞬間から、学生軍団は歓声を上げている。

「富士山が見えた! 富士山だ!」

 口々に叫びながら、生徒達がカメラ付き携帯を一斉に構える様子がとてもおかしくて、私はくすっと笑ってしまった。すると、先生が私の方を向き、ばりばりのお国なまりでこうおっしゃった。

「すみませんねぇ、うるさくして。(宮崎県から)外に出たことがない子ばっかりなんで」

 のんびりほんわかした先生と、それがきっかけでおしゃべりすることとなった。聞けば、前日まで大阪・京都を観光し、これから東京に向かう途中とのこと。東京ではディズニーランドや浅草、東京タワーなどを見学し、空路宮崎へ戻るとおっしゃっていた。何と5泊6日の大名旅行!
 先生自身も、大阪・京都・東京は初体験だそうである。

「やっぱり大阪は、人が多かったですねぇ。でも私、大阪に住んでみたいんですよ」
「大阪の人と京都の人って、やっぱり違いますねぇ。京都の人より大阪の人の方が、なんかあったかい感じがします」
「京都、寒かった〜。ものすごく寒かった〜」

 そんなことを立て続けにしゃべり続ける。

 私が大阪在住だと知った彼女、システム手帳に付属の大阪の小さい地図を取り出し、前日まで訪問した場所がどの辺なのか、私に矢継ぎ早に質問してくる。そして、こんな質問までされた。

「大阪の、他の名所って、何があるんですかねぇ〜?」

「大阪の名所」と改まって聞かれると、結構言葉に詰まるものだ。それで思わず「エキスポランド(大阪万博の跡地にある遊園地・「太陽の塔」があることで有名な場所)」と答えてしまった私。この答えは、正しかったのだろうか。

 おしゃべりしている間に、富士山が車窓一杯に広がるポイントにさしかかった。学生軍団は、興奮のるつぼである。写真を撮り、満面の笑みを浮かべている。

「うれしそうですねぇ」
「はい〜、ほんとにいい子たちですよ。純粋だし。でも・・・」
「・・・?」
「やっぱり外からの刺激が、ちょっと・・・」

 それ以上はおっしゃらなかったが、やはり地方の学校もそれなりにいろいろあるのだろう。

 東京に近づいてきた。高層ビルの林立ぶりを見て、生徒達は「東京だ、東京だ」と口々に叫んでいる。先生までため息をついている。

「やっぱり、違いますねぇ、東京は。ふわぁっ・・・」
「東京の人の多さは、大阪とは比べ物にならないですよ。びっくりしますよ」
「そうなんですかぁ。どうしよう」

 東京駅到着。「よいご旅行を」と先生に声を掛け、学生軍団と別れた。

 私は昼食をとろうと東京駅構内をうろうろし、結局カレースタンドに入った。私が座った席からは、厨房が丸見えである。注文が入ると、1人がご飯の量を計量して皿に盛り、横にいる人がカレーのルーをかけるという流れ作業を繰り返していた。
 しかしびっくりしたのは、「野菜カレー」の注文が入ると、レトルトをお湯の中に放り込んで暖め、はさみで開封し、ご飯の上にかけていたことである。いわゆる「受注生産」なのだが、いくら何でも厨房の裏が丸見えっていうのは、ちょっとなぁ。それにたかがレトルトなのに、むちゃくちゃ高いし。

 ぶつくさと心の中で文句を言いながら食べ終わり、営団地下鉄の乗り場に向かった。目指すは、青山骨董通り。
 壷のキャッチセールスとかあるんかな、などと思いながら電車に乗り込んだ私であった。

(次回に続く)