「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

<ひーエッセイ 第6巻 ★★カリスマ美容師★★>
発行日:'01/08/06(Mon)


 現在通っている美容院に初めて行ったのは、もう10年以上前のことだ。なかなかお気に入りの店が見つからずに、私はその当時「美容院ジプシー」をしていた。そんなとき新聞に、家から歩いて5分くらいの距離に美容院がオープンするというチラシが入った。「オープン初日で粗品がもらえる。こりゃラッキー。いっぺん行ってみよ」という安易な考えで初めて行った美容院に、その後私は飽きもせず、ずっと通い続けている。

 家から近いということもさることながら、店内がとてもシンプルだったのがまず気に入った。白を基調にしていて、ごてごてとした飾りやポスターもなく、余計な物が置かれていないので、店内がすごく広く感じた。置いてあるインテリアも割とセンスがいい。
 そして何よりも、その店の店員さんが、押しつけがましくなかったことが気に入った。美容院ジプシー時代に行った店は、やたら自分たちの考えや世間の流行を押しつけてきたりする所が多く、正直うんざりしていた。何でもないことなんだけど、そのことがとてもうれしかった。
 初代担当者は数年後に寿退社(?)し、今の担当さんは2代目。店がすいていたら、やってもらいながらぺちゃくちゃとよくしゃべっている。

「ロットを選ぶとき、黄色とかオレンジとか言ってるけど、太さが違うの?」
「そうなんですよ」
「ロットを巻くときに、なんでティッシュみたいな紙をはさむの?」
「なんでやと思わはります?」
「パーマ液が浸透しやすいようにかな?って思ってたんやけど」
「あー、そうかあ、それもあるかもしれませんねえ。でもね、ほんまは、髪の毛をロットに巻きやすくするためなんですよ。これをはさまないと、すべらないから、ものすごくやりにくいんです」
「おお、なるほど! それと、なんで、輪ゴムで止めた後、ピンみたいなのをはさむん?」
「ああ、こうしとかへんかったら、後で髪の毛に輪ゴムのあとがつくんですよ」
「へええ、そうなんかあ」

 先日もその美容院に行き、「暑いので、短めにカットしてほしい」と頼んだ。彼女は、私がヘアスタイルをちょっと変えたいとか、短めにカットしてほしいとか言うと、料金が変わるわけでもないのに、ものすごくうれしそうな顔をする。
 今回も彼女は、「え、切らはるんですか? えっへっへ・・・。どんなんにしましょ?」と言いながら、ヘアスタイルの切り抜き集を持ってきてくれた。
「・・・のってるの、若い子ばっかりやなあ・・・」
「・・・顔を見んと、髪型だけ見てください・・・」
「・・・はーい・・・」
 あほなやりとりをしながら、だいたいの長さとスタイルを決め、細かいところはいつものように、おまかせした。

「さっきの切り抜きのヘアスタイル、全部おんなじように見えるんやけど・・・何が違うんかな?」
「そうですねえ・・・(カットする)人によって切り方も違うし・・・ちょっとずつ違うんですよ」
「ふーん・・・カリスマ美容師とかっていう人は、やっぱりちょっと違うの? 上手なん?」
「うーん、私、そういう人にカットしてもらったことないから、よくわからないですけど、いろいろやと思いますよ。なんでこんな人がカリスマ美容師やねん!っていう人もいるけど、ほんまにすごい人にカットしてもらったら、切った時よりも1ヶ月たった時に違いがわかるっていいますよ」
「ふーん」
「人気のある人なんかやったら、半年くらい先まで予約がいっぱいっていいますし・・・」
「ひえー、すごいねえ」
「全国から来はりますからね」
「カットだけで、1万円くらいとってたりして」
「あるんちゃいますか」
「ひえー、ほんまに?」
「だって、指名料とかもありますから。それにそういう人がいる店は、美容師によって価格が違いますからね」
「指名料ねえ・・・なんや、ホステスさんの世界みたい」
「似たところ、ありますね」

 美容師さんっていうのは、とても勇気がいる職業だと思う。たとえお客さんの要望とはいえ、人の髪の毛を思い切りカットしたりすることで、その人の雰囲気やスタイルを変えたりするのだから。そしてその「作品」が、あっちこっちをうろうろと歩き回り、他人から遠慮のない評価が下され、時にはその「作品」の持ち主への評価さえ変わるのだから。

 だから、「カリスマ美容師」を半年待つっていう女性たちの行為がわからないわけではない。女性なら、少しでもきれいに見えるようにしてもらいたいって思うのは当然だから。でも、自分にとっての「カリスマ美容師」は、案外近くにいるんじゃないかなって思う。そういう人を見つける方が、遠くの「カリスマ美容師」を待つよりも早いのかもしれない。これって、恋愛に似てるな。

 私は、美容院に行っても自分の頭を見ずに、彼女の手先をじっと見ていることが多い。自分が大変ぶきっちょなので、手先を器用に動かしている人に私はかなりのあこがれを持っているのだ。カットしていく手際も鮮やかだし、ロットを巻くのも早い。できあがりは、いつもいい仕上がり。ほんとに尊敬してしまう。私にとってのカリスマ美容師は彼女だな、と感じた。

 感じたままに彼女にそう伝えてあげればよかったかな・・・。こう言ったら、彼女はどんな顔を見せてくれただろう・・・。
 笑顔の彼女に見送られ、すっきりした首筋をなでながら店を出て、私はそんなことを考えていた。