「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

<ひーエッセイ 第3巻 ★★わりばし、いりますか?★★>


 ある夕方、駅前にあり夜の11時までやっているので、小さいながらも結構はやっている、地元のスーパーに入った。その日のおかずを買うのが目的だった。私は父との2人暮しだが、父は長期入院中なので、実際は1人暮らしのようなものである。

「今日は何食べようかなあ・・・。ん、たこのたたき? かつおのたたきやったら聞いたことあるけど・・・あ、2割引きになってる。おもしろそうやから、今晩食べよ。それと・・・なんかおいしいそうなおかずはないかなあ・・・。ん、ブロッコリーとかにかまの胡麻和え? おいしそうやなあ。あ、そうや、うちに冷凍のブロッコリーがまだ残ってたなあ、それ使って自分で作ろ。かにかま、かにかま・・・あったあった・・・2種類あるなあ・・・安いほうにしとこ。それから・・・厚揚げかあ・・・長いこと食べてへんなあ。これフライパンで焼いて、ねぎとか鰹節かけて、しょうゆかけて食べたらおいしいもんなあ。よし買おうっと。あ、でもうちにねぎがなかったなあ。ねぎ、ねぎ・・・青ねぎ78円か・・・でもこんなぎょうさんいらんなあ・・・あ、カットネギがある。98円か。高いけどこっちの方が量が少ないから、カットネギにしよっと」

 心の中でこんなくだらないひとりごとを繰りながら、私はレジに向かった。

 そのスーパーにはレジが3台。昼間は女性がレジに入っているが、夕方から夜にかけてのレジ係は、若いお兄ちゃんである。商品がすべてレジを通って「890円です」と担当のお兄ちゃんは私に告げた。それから続けて「・・・、いりますか?」と私に尋ねた。その時私は財布を覗き込み、「あ、100円玉結構あるけど、足らへんわ。1000円札出さんといかんなあ」とか考えていた。そんなわけで、お兄ちゃんが続けて言った言葉がはっきりと聞き取れなかったので、「え?」と聞き返した。親切なお兄ちゃんは、もう一度、はっきりと言ってくれた。
「割り箸、いりますか?」

 「いらないです。ありがとう」と答えて、私はそのスーパーを出た。家に帰る途中で、ふと考えた。「私、今日は弁当とか買ったわけじゃないのに、なんで、割り箸いりますか?って聞かれたんやろ?」
 家にたどりつき、スーパーの袋の中身を冷静に眺めてみて、お兄ちゃんの言葉に納得してしまった。たこのたたき、かにかまぼこ、厚揚げ、ねぎ(それもカットネギ)・・・まるで単身赴任してるお父さんが、酒のつまみとして買うような中味やなあって。

 学生時代に、アルバイトでスーパーの食品レジを4年ほどしていた。最後の頃には、かごの中身を見るだけで、その人のその日のおかずはもとより、大体の家族構成もわかるようになった。あげくの果てには、商品の買い方やかごへの入れ方、お金の出し方などで、その人のおおよその性格まで推測ができるようになったのである。人の台所を正面から覗き込んでいるようなものである。考えてみたら、へんなバイトである。そんなことを鮮明に思い出した。

 「割り箸いりますか?」と聞いてくれたってことは・・・あのお兄ちゃん、いったい私がどんな生活してるって考えたんだろう。彼は気を回したつもりなんだろうけど、私はちょっと気恥ずかしくなった。割り箸がいるかと聞かれるということは、家に箸もないような生活・・・料理もせずに、出来合いのものや外食ですませている人なんだって思われたんだろうか。それとも、家に帰ってこれを食べながらビール飲んで、プロ野球とかを見ているおっさんのような女だと思われたんだろうか・・・。私だって少しは料理をするし、まだ女を捨てたわけでもない。え、でももしかして、若いお兄ちゃんに言われたから、意識してんのかな? ああ、やだやだ。こんなことを気にするのが、おばはん化してる証拠なのかなあ。

 たかが「割り箸いりますか」のひとことで、私の想像は果てしなく広がる。そんなこと考え出したら、買い物もできないんだけれど。