「ひーエッセイ」 バックナンバー

 

 

   

 2年程前の夏、これ以上ないくらい体調が絶不調の時期があった。肩はこってぱんぱんだし、体はだるくて朝起きられなくてしんどくて、1ヶ月に1回くらいの割合で、完全に朝ベッドから起きられずに会社を休むということがあった。

 そんな話をするともなしに周りの人にしていたら、ほぼ同時期に2人の人間から「鍼に行ったら?」とアドバイスされた。そうかあ、鍼か・・・、そういえば、小中学校のころ親に強制的に行かされたなあ・・・ついでに「灸」までさせられた。あれは熱かったなあ・・・などと、うだうだ考えていた。一番のネックは、費用であった。鍼って確か健康保険がきかなかった記憶がある。1回数千円・・・お財布直撃だ。
 でももうそんなことを言ってられない。とうとう勤務先にあった電話帳をひっぱりだし、勤務先の近所にある鍼灸院を探し、事務所から一番近い病院を探し出して訪問した。

 看板は出ているけれど、そこはマンションの2階の1室。管理人さんはいるけれど、何だか怪しげなマンション(と、その時は思った)。ベッドも2つしかなく、基本的には予約制の病院だった。あとでわかったことだが、飛び込みより口コミでお客さんが来る病院だったのだ。でもそのときは偶然患者さんが誰もいず、幸運にもすぐ診察してもらえた。50代くらいのおっさん先生が、1人でやっておられた。ケアマネージャーの資格も持ち、往診までされているらしい。

「どうしたんですか?」という先生の問いに、とにかく肩がこると答え、更に「決まって週末になると頭痛がして、ひどいときは土日とも動けなくなるんです」と訴えた。
 これはおおげさでなく本当で、朝、頭痛で目が覚めることも少なくなかったのである。そういうときは当然食欲もなく、1日何も食べてないのに吐き気がし、トイレで胃液を吐いてしまうようなこともあった。そんな私の体を触っただけで、先生は大体のことはわかったらしい。その日は肩や頭に鍼を打たれたのはもちろん、足にも打たれた。「ここがつまってるんだなあ」とか言いながら。

 このおっさん先生、結構しゃべりである。初対面だというのに1人でしゃべりまくっていた。
「一時期、鍼でやせるっていうのがはやったでしょ? あれ、困っちゃったんだなあ。うちにもそういう人が来たんだけど、みんな断ったよ。だって、鍼ではやせないんだもん」
「どぶ川をきれいにするとき、どうする? 西洋医学っていうのは、どぶ川に薬をまくんや。見た目はきれいになる。でも副作用の心配がある。東洋医学は、そのどぶ川のごみを拾うようなもんなんや。薬をまくみたいにすぐには効果は見えへん。でも、汚いごみを少しずつでも拾っていくから、ほんまにきれいになる。あんたもこれから、しばらく続けておいで。必ず元気になるから」
 こちらは、相槌をうつのが精一杯。このおしゃべりは、現在も続く。慣れてきたせいもあり、好きなことをしゃべりまくる。
「会社やめてから、(顔の)緊張がとれたねえ。やっぱり、ストレスたまってたの? ふーん。あなたは癒し系の顔をしてるから、次はホステスさんにでもなったら? え、酒が飲めない?いや、飲めなくてもいいんですよ。お客さんの悩みを聞いてあげるとかね。はっはっは」

 やはり予想通り、鍼灸は健康保険がきかなかった。だいたい1回4,000円前後だと思う(都道府県によって違うらしい)。でも「しばらく続ける」という私に、先生は保険適用にしてもらえる技があることを教えてくれた。そして、私はそれからほぼ毎週そこに通うようになった。会社をやめてしまったので通院がちょっと大変なのだが、今も通っている。
 先生の予言通り、徐々に私は元気になっていった。相変わらず肩はこるが、前ほどひどくはなくなった。肩がこっているという意識がなくなるときもあるほどだ。頭痛薬も前ほど減らなくなった。

 おっさん先生には本当に感謝している。ただ時々しょうもないことを言うのがたまに傷なのだが・・・。